公営住宅

 

□主テーマ

シルバーリフォームに関する研究

 

□研究期間

2000~

 

□研究チーム

中園・大庭

研究の背景と目的

公営住宅法が制定されて50年という月日を経て、公営住宅は大量のストックをかかえることとなりました。フロー対策(建替)からストック対策(整備)へと展開してきた公営住宅政策では、現在、老朽化した公営住宅の再生への取り組みと、居住世帯の急速な高齢化が大きな課題となっています。また、1970年代に建設された公営住宅の耐用年限が迫ってきており、老朽化や陳腐化の程度の差があるため様々手法が課題となっています。2000年度に公営住宅ストック総合改善事業制度が創設され、住宅改善を進めようとする自治体は「公営住宅ストック総合活用計画」を策定し、これに事業を進めることとなりました。このような背景より、公営住宅ストックのうち高齢者対応住戸改善が実施される団地において住まい方調査を実施します。この調査より高齢者の住要求を把握し、今後、高齢者に対応した住戸改善を行なう際にこれらの調査結果をもとに、公営住宅の住戸改善事業の参考にし、より良い住戸改善の計画作りに活用させていくことを研究目的としています。

 

           公営住宅(全国)の建設年度別 構造別 管理戸数

 

市営住宅・県営住宅の住まい方調査(2005年度)

宇部市小羽山団地(5戸)・岬団地(2戸)・京納団地(1戸)・則貞団地(1戸)において空き住戸となったため、住戸改善改修工事が行なわれました。そのうち、小羽山(4戸)・岬(1戸)・京納(1戸)に転居してこられる方のみ転居前の住まい方調査を行いました。その結果、居住者が水回り設備や広さ、断熱性、遮音性、買い物の利便性において最も改善を望んでいることがわかりました。しかし、これら調査対象世帯は民間借家に居住されている方がほとんどで、東新川団地と比べそれぞれの評価が同一住戸に対してではありません。住まい方の特徴については分析中です。

今後は上記の方が転居され、住み慣れた時期に転居後の住まい方調査を実施し、また、これまでと同様に今後行われる宇部市営住宅の住まい方調査、住戸改善が行われる県営住宅において、住まい方調査と同時に改修工事における技術面の方向から研究を行う予定です。

 

  

 

  

             宇部市市営住宅の改善部分(一部)

 

東新川団地・改善後の住まい方調査(2004年度)

東新川団地1棟の改修工事が終了し、1棟の方にのみ改善後の住まい方調査を行ない、改善前と改善後の比較を行ないました。その結果改善前の住戸評価と比較すると

・間取りと風通しが改修前より下がった。

・浴室とトイレの広さは改修前よりも不満が解消された。

以上の2つのことが最も多く評価されました。                    

住まい方の特徴は、              

①住戸改善後、2Kプランから1DKプランになったことで食寝一致が解消され食寝分 離となった世帯とそうでない世帯がある              

②比較的若い層の単身者においては1DKプランが適性と判断されるが、後期高齢 者においては、体力の衰えで住戸内の行動範囲が狭いことや、長年のユカ座の習 慣などから1DKプランは適性でないと判断できる               

③居住者の年齢層や世帯構成が様々な団地においては決まった住戸改善を行なっ ても住まい方に矛盾が生じてしまうため、住戸平面プランを居住者が選択できるメ ニュー方式が望ましいと考える。                          

以上のことをふまえ、5種類の住戸平面プランを提案しました。

 

          

            東新川団地(改善後)              EV 

      

                     改修後平面図

 

公営住宅ストック改善支援システム(2003年度)

①団地環境  ②立地環境 ③入居世帯の属性を指標として、団地ごとの事業の優先順位や、若者世帯向け・高齢世帯向け改善メニュー検討、またメニューごとに改善効果を予測できる支援システムの構築を行ないました。               

その結果、                  

①宇部市営住宅は、団地属性や立地環境、入居世帯属性が多様化している 

②入居世帯属性の高齢化率や住替えは団地属性と深く関係している    

③若者世帯の入居待ち率は団地属性との関係が深く、一方高齢者世帯の待ち率は 立地環境との関係が深く関係している                

④1970年代建設型の個別改善対象団地は「超高齢 増加型」「高齢増加型」「高齢 進行型」に分布している                     

⑤入居待ち率の要因は、50歳未満は団地環境が主 要因で、50歳以上は団地環 境がと立地環境が要因 である                    

⑥建替え後の50歳未満の入居待ち率の増加率は全 団地で20%を超える 

以上の6つのことが得られました。

         

                        研究の概念図

 

東新川団地・改善前の住まい方調査(2002年度)

東新川団地は、中層耐火造廊下型で、1棟は1969年建設、2・3棟は1970年建設の南面2室の2Kの住戸プランです。本団地は、公営住宅ストック活用計画によって定められた、宇部市営住宅の住戸改善対象団地の中で最初に住戸改善が実施される団地です。これら3つの棟において38世帯に改善前の住まい方調査を実施しました。その結果、                  

▽居住者が最も改善を望んでいること      

・トイレの設備、給湯設備、浴室の設備などの水廻り                

・住戸内の収納スペース            

・周辺に緑が少ないなどの自然環境       

 

▽住まい方の特徴               

・年齢層や世帯数、来客が頻繁であるかないかによって室の使われ方が違う。  

・エアコンの設置場所と押入れの位置は住まい方を規定する大きな要因となる。  

・年齢による体力の衰えにより、台所に近い副室で生活が集中する。       

 

以上のことがわかりました。このことから、年齢による変化と多様な家族類型、異なる生活スタイルに対応できる居住空間の確立、子供や孫等の来訪時の受け入れ居室の確保という課題があげられました。

 

     

          東新川団地(改善前)            改修前平面図

 

公営住宅ストック改善計画方法提案(2001年度)

公営住宅ストックにおける活用手法判定として、居住者属性をその一要素として取り入れ、公営住宅の再生・活用のための計画方法の提案を行なうため、宇部市市営住宅における改善対象団地を    

(1)団地周辺の立地条件            

(2)改善対象団地の住宅属性         

(3)改善対象団地の居住者属性        

以上3つの視点から分析を行いました。                         

その結果、公営住宅の再生・活用において、団地の特性と計画課題を把握する方法として、     

①団地の特性は、立地条件と団地属性からみた物理的特性と、居住世帯を高齢化 率・転入率・入居待ち率からみた住み替え特性によって類型化された類型別の特 徴は立地条件・住宅属性・居住者属性を各々に判定するよりも、具体的な計画手 法が抽出できる                  

②公営住宅の再生・活用において、団地特性を客観的な指標により明らかにし、具 体的な活用手法とそれぞれの計画課題を導き出す有用な方法といえる   

③団地特性をふまえた上で計画課題を抽出し、そうした個別の事情に合わせた段階 的な計画手法を提案することができる               

以上3つがあげられました。       

 

               

                      判定のフローチャート